インドア派ちゃんのブログ

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TUGUMI(吉本ばなな)の感想

TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)

TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)

あらすじ

主人公白河まりあは東京の大学生。従妹に病弱で生意気、そして美少女なつぐみがいる。 夏、そのつぐみのいる海辺の小さな町に帰省する。つぐみの傍若無人な振る舞いに振り回されながら、二度と戻らない眩いひと夏を過ごしていく。

感想

読了直後

正直読了後に分かりやすい感動が襲ったかというと、そうではなかった。
そもそもこの本を買った理由はネットでおすすめ恋愛小説のまとめに載っていたからだ。そのことを今思い出したが、果たしてこれは恋愛小説なのか?と疑問に思う。恋愛を扱ってはいるが、私はそこまでその部分に視点が向かなかった。
期待していたものとは違った印象を持ったからか、感動はそこまで大きくはなかった。 だがじんわりと心を揺さぶる何かを確かに感じていた。

懐かしさ

TUGUMIを読んでいると10代の泣きたくなるくらい懐かしい、あの夏の独特なノスタルジーが鮮やかに感じられるのだ。その一瞬の時の大切さと儚さを主人公の言葉により思い出す。

夏が来る。さあ、夏がはじまる。
必ず1回こっきりに通り過ぎて、もう2度とないシーズン。そんなことよくわかった上できっといつも通りに行ってしまうだろう時間は、いつもより少しはりつめていて切ない。その時、夕方の部屋にすわって、私達はみんなそのことをよく知っていた。悲しいくらい知った上で、なおとても幸福な気持ちでいた。

こんな文章読んでしまったら胸が締め付けられて仕方ない。
吉本ばななさんの作品を初めて読んだが、一つ一つの景色をかけがえのないものに見せる繊細な描写に胸が暖かくなった。

つぐみ

つぐみは乱雑な言葉を使い、わがままでずる賢く、それでいて儚く美しい。こんなにちぐはぐで、それでいて魅力的なキャラクターを久々に見た気がした。
つぐみほど我儘放題な人に会ったことはないが、ほんの少しだけ近しい人なら知っている。まっすぐで、自分の正しいと思うことを疑わず実行する人だ。そういう人はどんなに我儘であってもどこかまぶしくて、我儘がときたま可愛くみえたりもして、迷惑を被ったとしても「まあいいか」なんて思わせてしまう魅力を持っているものだ。
つぐみはそういった魅力を存分に発揮していた。美しさと病弱さも影響しているが、そうでなかったとしてもきっとつぐみは周囲を虜にしている。

最終的に思ったこと

作者が伝えたかったこととは違う気もするが、この本を読んでいると好き勝手自分の正義を貫いても案外自分を見捨てない人もいるし魅力に感じてくれる人もいるのだな、と思える。
私は他人の意見に振り回されるし人の目を常に気にしてきたから、そういう生き方に強い憧れを持っている。つぐみを魅力的に感じたのもそのせいだ。
嫌う奴は放っておいて、好く奴にも媚を売る事なく、ただ自分の思う通りに生きていく。そういう生き方の尊さに触れられた本だった。